「太っていると健康に悪い」というのはもう、みんなが思っていることですよね。
そのためテレビでは毎日ダイエット特集が組まれ、ダイエットに良いとされる健康食品もたくさん販売されています。
脂肪たっぷりの肥満体だと高血圧・高脂血症・心筋梗塞・糖尿病・脳梗塞・腰痛・睡眠時無呼吸症候群などさまざまな病気の原因なり、とっても健康に悪い!!しかも見た目だってみっともなくなる。
ですが、さまざまな疾患の危険因子となるはずの「肥満」が、逆に健康に良い影響を及ぼすという研究結果が発表されています。
これを「肥満のパラドックス」と呼びます。
結局のところ痩せている方がいいのでしょうか?それとも、太っている方が長生きできるのでしょうか?
肥満のパラドックスを示した研究結果
まずは、肥満のパラドックスを指し示すさまざまな研究結果を紹介します。
まずはアメリカ心臓学会の発表。
アメリカ心臓学会の調査によると、「心不全になる前の体型」と「心不全発症後の10年生存率」に関係があることがわかりました。
痩せている方が生存率がいいんでしょ…と思いきや、その結果はまったくの逆!
研究によると、太っている方が生存率が高かったとのです。
普通体型のグループの死亡率は51%だったのに対し、肥満気味のグループの死亡率は45%で、肥満体グループの死亡率は38%でした。
心不全なんて、思いっきり太っている方がリスクが高い病気泣きしますが…。
では次に、ニューヨーク州立大学の発表。
ニューヨーク州立大学の研究チームが冠動脈疾患患者1万人を調査した複数の論文を独自に分析したところ、驚くべき結果となりました。
なんとBMIが20以下の痩せ体型の人は、普通体型の人よりも心臓病で死亡する確率が1.8~2.7倍も高かったとのこと。
しかも普通体型の人よりもBMIが25以上の肥満体の方が死亡率が低いことがわかりました。BMIが35以上の”超デブ”ですら、標準体型に比べて死亡率が低かったというから驚きです。
BMI=35以上って…日本じゃなかなかお目にかかれないくらいの肥満です。
そんな肥満体が普通体型の人よりも死亡率が低いなんて、なんとも納得できません。まさに肥満のパラドックスですね。
次の研究もアメリカのもの。
アメリカ医師会の会報に発表された研究でも「太っている方が死亡リスクが低い」という研究が発表されています。
糖尿病と診断された40歳以上の男女2,625人のデータを用いた調査においても、BMIが25以上の肥満体の患者の方が死亡率が低いという結果になりました。
しかも肥満体型の患者よりも、標準体型の患者の方が2倍近く死亡リスクが高かったとのこと。
今まで紹介した研究は肥満大国アメリカでの調査です。
では、アメリカよりも明らかに痩せ体型が多い日本ではどうでしょうか?
岡山大学の研究によると、日本でも肥満パラドックスの傾向は確かにあり、特に肥満の高齢男性はあらゆる意味で死亡リスクが低いことがわかりました。
日本でも肥満のパラドックスは存在するのですね。
なぜ、不健康と思われている肥満や太りすぎが、標準体型と比べて有利に働くのか?
その明確な理由は未だわからず、専門の医師も首をかしげている状態です。
ですが、肥満のパラドックスが発生する”仮説”は考えられています。
肥満のパラドックスが発生する理由とは?
①肥満体の方がエネルギーをため込んでいる
病気になると食欲が落ちてしまい、栄養不足になりがち。それがまた、病気の回復を遅くしてしまいます。
ひどい風邪をひいたときに食欲がなくて苦労したことがある人も多いでしょう。
こういった傾向は特に高齢者で起こり得ます。
肥満で脂肪細胞がたくさんあると、身体がエネルギーをため込んでいるため、病気に対抗する力が強い可能性があります。
②疾患の初期段階で気づきやすい
「健康すぎて病気なんてしたことない!!」
という方の中には、「今まで健康診断なんて一度も受けたことがない」とか「人間ドックは10年前にやったよ」という自信過剰&ズボラな人がたくさんいます。
その点、普段から肥満で不健康な人は、より多く検査を受ける機会があり、いろんな病気を初期段階で発見しやすい…のかもしれません。
また、肥満であることで病気の初期段階からすぐに症状があらわれる可能性もあります。
健康な人が自分の身体の異常に気づくのは、病状がかなり進んでから。だけど肥満体はすぐ気づく。
この違いが生存率に影響している可能性もあります。
③そもそもBMI問指標に問題がある。
今回紹介した研究では、そのすべてにおいて肥満や標準体重の分類にBMIを利用しています。
BMI(ボディマス指数)は身長と体重だけで自分の体型の目安を割り出せる、簡易的な体型指標。
BMI=18.5未満が痩せ体型。
BMI=18.5以上25未満が標準体型。
BMI=25以上が肥満としています。
こういった肥満のパラドックスが起きる原因のひとつにBMIという指標の問題点があります。
BMIでは男性も女性も、あらゆる人種でも、「BMI=25以上が肥満」と決まっています。
身長と体重だけで体型の目安を簡単に割り出せるBMIは、使い勝手はいいもののすべての人に同じように当てはまる指標ではないようです。
運動している人や、体質的に筋肉質体型な人などでも、肥満の定義は変わってくるでしょう。
BMIは体重を身長で2回割り算して導き出すため、身長が高い人と低い人で数値がかなり大きく違ってきます。
また内臓脂肪が多いのか、皮下脂肪が多いのかでも健康へのリスクは変わってきます。
内臓脂肪が多いと内臓の機能が低下していろんな成人病のリスクが上昇するのに対して、皮下脂肪は増えすぎても健康へのリスクはほとんどないからです。
BMIでは内臓脂肪と皮下脂肪の割合はわかりません。
こういったBMIの不完全さが、肥満のパラドックスを作り出す要因の一つになっている可能性があります。
肥満のパラドックスは本当にあるのか?
肥満のパラドックスは本当に存在するのでしょうか?
肥満のパラドックスを指し示す研究結果は確かにありますが、それとは正反対の研究結果も確かに存在します。
太っている方がいろんな疾患の発症リスクが高く、死亡率も高い。
そんな研究結果は、肥満のパラドックスの報告以上に存在します。
そのことから、痩せていれば健康というわけではありませんし、太っていれば健康というわけでもないことがわかります。
BMIはあくまでも目安であり、それほど信用するような正確な指数ではないでしょう。
痩せすぎでも太り過ぎでもない、自分の体質に合った標準体型を見つけるのが、健康維持には大切なようです。
さらに健康維持のために重要なのが、体重そのものではなく、体重の変化です。
一般的に20歳の頃よりも5キロ以上体重が増え足り減ったりすると、健康リスクも高まるといわれています。
20歳の頃に太っていたかもしれませんし、痩せていたかもしれないので一概には言えませんが、短期間で体重が大きく変化するのは危険であることは確か。
BMI=18.5以上25未満が標準体型ということになっていますが、自分が20歳ごろの体重を標準体重とするという考え方もあるのではないでしょうか。
20歳の頃に少しくらい太っていても、無理に痩せるよりもその体重を維持していた方が健康的に生きられる可能性があります。
今現在標準体重の範囲内でも、それが過度にダイエットした結果だったり、凄く太ってしまった結果だったとしたら危険信号と捉えていいかもしれません。
自分の標準体重を目標に増量や減量をすれば、健康寿命が延び、長生きできるのではないでしょうか。