2006年にイギリスの科学雑誌ネイチャーで「肥満体型と痩せ型体型の人では腸内細菌の種類やバランスが違う」という事実が発表されました。
太りやすい人、痩せやすい人、その違いが食生活ではなく、腸内環境にあるということが驚きです。
太りやすい人は平均的な食事量だったとしても太るし、痩せやすい人は平均的な食事量だったとしても体重が減る可能性があるのです。
この研究の内容と共に、太りやすい腸内環境に変化させる方法を紹介します。
太りにくい体質の人の腸内には、太りにくくする腸内細菌が多い!
研究を行ったのはハーバード大学の研究者と、ワシントン大学医学部のジェフリー・ゴードン博士率いる研究チーム。
研究チームは痩せているマウスの腸内細菌を採取し、太っているマウスに移動させるという実験を行いました。
すると腸内細菌を移植された痩せているマウスは、今までと同じ量のエサを食べているにもかかわらず太りやすくなったのです。
このような腸内細菌の変化は、マウスだけでなくなんと”魚”でも確認されました。
ノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究チームが小さなお魚「ゼブラフィッシュ」の腸内環境を調べました。
その結果、エサをたくさん食べるゼブラフィッシュほど、腸内のファーミキューテス(デブ菌)が多く、脂肪の吸収効率が良くなっていたとのこと。
つまり、「太りやすい体質」や「食べても太れない体質」は、胃腸の調子や食生活の内容なども重要ですが、それと同じくらい腸内細菌の種類やバランスが重要な役割を担っているようなのです。
腸の中にはたくさんの種類の細菌がいます。
善玉菌に分類されるビフィズス菌や、悪玉菌といわれる大腸菌なんかが有名ですね。
腸内細菌は何千という種類が混在していますが、大きく4種類に分類することができます。
バクテロイデス門、ファーミキューテス門、アクチノバクテリア門、プロテオバクテリア門の4種類。(”門”は細菌のおける分類の単位です)
中でもファーミキューテス門とバクテロイデス門の2種類は、腸内細菌をうちの80~90%をが占めている多数派です。
ゴードン博士の研究チームがマウスの腸内細菌を詳細に調べたところ、痩せやすいマウスにはバクテロイデスが多く、ファーミキューテスが少ないという傾向があることがわかりました。逆に太りやすいマウスにはファーミキューテスが多く、バクテロイデスが少なかったのです。
この腸内細菌と体重の関係は、そのまま人間でも当てはまりました。
太っている人の腸にはファーミキューテス菌が多く、痩せている人の腸にはバクテロイデス菌が多かったのです。
ゴードン博士によると、腸内のファーミキューテス菌は消化されにくいデンプンなどの多糖類を分解し、効率的にエネルギーとして吸収することができるようなのです。
またファーミキューテスの多いゼブラフィッシュは脂肪の吸収効率がよくなっていたため、糖質だけでなく脂質の吸収効率も良くなる可能性があります。
ファーミキューテスには腸内で糖質と脂質を効率的に消化し、吸収する作用があるんですね。
そのため、少量の食べ物からでもたくさんのエネルギーを摂取でき、身体にため込むことができる。
逆にバクテロイデス優位の腸内環境だと、たくさん食べても効率的にエネルギーを吸収できず、上手く太ることができないことになります。
この事実から、痩せているマウスに多い「バクテロイデス類」をヤセ菌、太っているマウスに多い「ファーミキューテス類」をデブ菌、なんてわかりやすく呼ぶこともあります。
つまり、痩せ体質に少ない腸内細菌であるデブ菌(ファーミキューテス類)を増やすことができれば、太る体質に変わることができる可能性があるのではないでしょうか。
ポイント
ファーミキューテス菌は腸内でエネルギーの吸収効率を上げることから、デブ菌と呼ばれる。
バクテロイデス菌はエネルギーの吸収を阻害するので、腸内で増えすぎると食べても太らない体質になる。
デブ菌(ファーミキューテス類)の役割と増やす方法
デブ菌や痩せ菌という言葉は、テレビのバラエティ番組で視聴者にわかりやすく伝わるように考えられた”造語”です。
「痩せ菌を増やして痩せ体質を手に入れよう!!」なんて感じで使われます。
このようにダイエットの方法を紹介するときに使われているので、「デブ菌=悪玉菌」「痩せ菌=善玉菌」というイメージがありますね。
ですが、痩せ菌はエネルギーの吸収を阻害しますし、デブ菌はエネルギーの吸収を促進させます。生物としてみるのなら、デブ菌が多いほうが健康的といえるのではないでしょうか。
実際のところ、ファーミキューテスもバクテロイデスも、それ自体が身体に悪いというわけではなく、どちらも大切な腸内細菌。
善玉菌でも悪玉菌でもありません。
大切なの腸内細菌のバランスです。どちらかが欠けても健康的な腸内環境にはなりません
では、腸内のファーミキューテスを増やすにはどうしたらいいのでしょうか?
ファーミキューテス門は腸内の食べ物を効率的にエネルギーに変えて吸収することができます。
つまり食いしん坊の腸内細菌ってことです。
ファーミキューテスを増やすには、ファーミキューテスの活動を活性化させる必要があります。
そのためにはエサとなる食事をすればOK。
食事量を多くすること、特にファーミキューテス菌の大好きな糖質や脂質の多い食事をすること、そうすれば自然とファーミキューテス菌は増えていくでしょう。
実際、人間とマウスの実験によると、高カロリーで高脂肪の食事を続けると腸内のファーミキューテス菌が増え、低カロリーで低脂肪の食事を続けるとファーミキューテス菌が減ることがわかっています。
痩せている人や、胃腸が弱くて脂っこいものをあまり食べられない人は、ファーミキューテス菌の活動が低下している可能性があります。
食べないから、ファーミキューテス菌が減ってしまい、太りにくい体質になってしまうという悪循環に陥っているのです。
ファーミキューテス菌を増やすには、無理のない程度にしっかりと食事をするのが大切なんですね。
でも、腸内環境なんて簡単に変わるの??
そう思うかもしれません。ですが、腸内細菌の環境は食生活によって、かなり短期間で激変します。
具体的には、数週間も食事内容を変えると、腸内フローラもかなり変わってしまうようなのです。
もし自分は太らない体質だから…と諦めて小食を続けているとしたら、ますます太らない体質になってしまうでしょう。たとえ太らなかったとしても、ちゃんと食事をとることが太る体質になるための第一歩なのです。
また、脂っこいものが苦手だったとしても、ちゃんと食べることが大切です。
厚生労働省では、1日の摂取カロリーの20~30%は脂質から摂ることを推奨しています。
肉の脂身もそうですが、オメガ三脂肪酸が多い青魚の脂、健康に良いとされるオリーブオイル、脂質の多いナッツ類などをバランスよく食べましょう。
油で調理した野菜類もオススメです。
野菜のようにもともと油を含まない料理は、調理によって使われた油を吸収しやすいという特徴を持っています。
オリーブオイルをたっぷりと使って野菜を炒めて、そこに少しだけ塩・胡椒。こんなシンプルな野菜炒めを食べるだけでも、ビタミン・ミネラルとともにしっかりと脂質が摂取できてオススメです。
1日の総摂取カロリーを増やすとともに、ちゃんと糖質や脂肪分の多い食事も食べる。
そうすれば腸内細菌が変化して、太りやすい体質になるのではないでしょうか。
ポイント
腸内のファーミキューテス菌(デブ菌)を増やすには、栄養バランスの取れた食事をしっかりと食べることが大切。
特に脂質をしっかりと摂りましょう。脂質は細胞膜の原料となりますし、健康維持にとても大切な栄養素です。